気候変動対応
2024.10.31
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気候変動は地球環境や社会・経済に対して大きな影響を与える一方、長期的で不確実性の高い問題です。
当社は、気候変動を経営上の重要な課題の一つと捉えており、2022年6月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同を表明いたしました。当社グループは気候変動に係るリスクおよび収益機会が自社の事業活動や収益などに与える影響について分析・検討し、TCFD開示フレームワークに沿った情報開示に取り組んでいます。


ガバナンス
当社取締役会は気候変動問題への対応を重要な経営課題の1つとして認識しており、リスクおよび機会の両面から当社グループの気候変動問題への取組みを監督しております。具体的には、取締役会において経営戦略や経営計画等について審議を行う際に、必要に応じて、気候変動問題に関連したリスクや機会を踏まえたうえで、意思決定を行っております。
また、ESG活動を全社的かつ組織横断的なものとし、円滑かつ効果的に推進することを目的として、ESG推進担当取締役を委員長とする“ESG推進委員会”の設立を、経営戦略会議にて2021年4月に決議いたしました。
年2回の定例開催に加え、適宜臨時に開催しており、気候変動に関わる戦略の検討のほか、ESGに関連する各種議題の協議も行われています。取締役会はESG推進委員会の活動に関する報告を受けるなど、適切に監督を実施しています。
なお、当社はESG活動を全社的に推進する“ESG推進室”を2022年4月に新設しております。
当社グループの気候変動対応を含むESG活動に関しては、ESG推進委員会が中心となり、ESG推進室を通じて本社部門、事業部、製作所、グループ会社と連携しながら推進していきます。
ESG活動推進体制
戦略
気候変動が及ぼすリスクと機会が、当社の事業戦略にどのような影響を及ぼすかを評価し、対応策を検討することを目的として、シナリオ分析を実施しました。シナリオ分析に用いた前提は下記となります。
分析の対象は連結決算ベースの全事業、分析時間軸は2030年としました。シナリオについては、「2℃未満シナリオ」としてIEAのSDSシナリオ(Sustainable Development Scenario)とIPCCのRCP2.6等を、「4℃シナリオ」としてSTEPSシナリオ(Stated Policies Scenario)とIPCCのRCP8.5等を採用しました。
シナリオ分析の前提
項目 | 対象 | ||
---|---|---|---|
事業範囲 | 全事業 | ||
企業範囲 | 連結決算ベース | ||
分析時間軸 | 2030年 | ||
選択シナリオ | 気温上昇 2℃未満 |
移行シナリオ IEA※1 SDS |
物理シナリオ IPCC※2 RCP2.6 等 |
気温上昇 4℃ |
移行シナリオ IEA STEPS |
物理シナリオ IPCC RCP8.5 等 |
※1:IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)
※2:IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)
シナリオ分析のプロセスとして、まずは気候変動がもたらす可能性があるリスク・機会を洗い出し、様々な項目の中で、営業利益への影響度が比較的大きくなることが想定される項目を抽出しました。次いで、これらの項目の影響度の試算に必要となる客観的な外部データを収集し、2℃未満シナリオと4℃シナリオに基づき、2030年時点での影響額の試算を行いました。
そして試算の結果に対して、対応策を検討しました。試算を行った項目、影響度、対応策は下記の通りとなります。
2030年度を想定した気候変動がもたらす
“リスク”
<1年間の営業利益額へのインパクト>小:~100百万円、
中:100~1,000百万円、大:1,000百万円~
区分 | タイプ | 内容 | 影響度 | 当社の対応 | |
---|---|---|---|---|---|
2℃ | 4℃ | ||||
移行リスク | 政策・規制 | 炭素価格の導入 (炭素税の課税) |
中 | ー |
|
国境調整税の導入 | 小 | 小 |
|
||
テクノロジー | 生産設備で用いる燃料の非化石化対応の為の設備改修・更新、およびR&Dに掛かるコスト | 中 | 中 |
|
|
市場 | 従来型火力発電所建設縮小に伴う火力発電関連製品需要の減少 | 小 | ー |
|
|
鉄鋼業界の高炉から電炉へのシフト(CO2削減対策)に伴う製鋼原料の需要拡大による調達コスト増加 | 中 | 中 |
|
||
評判 | 製品製造段階でのCO2排出量削減対策の遅れに伴う当社のESG評価・評判の悪化 | 中 | 中 |
|
|
物理的リスク | 急性 | 異常気象による台風、豪雨等の自然災害の激甚化により被災した製作所、サプライチェーンの設備復旧に伴うコスト増加 | 小 | 小 |
|
慢性 | 海面上昇への対策費用(設備投資)増加 | 小 | 小 |
|
2030年度を想定した気候変動がもたらす“機会”
<1年間の営業利益額へのインパクト>小:~100百万円、中:100~1,000百万円、大:1,000百万円~
区分 | タイプ | 内容 | 影響度 | 当社の対応 | |
---|---|---|---|---|---|
2℃ | 4℃ | ||||
機会 | 市場 | EV市場の拡大 | 大 | 大 |
|
高効率で省エネなパワーエレクトロニクス市場、5Gインフラ市場の拡大 | 中 | 中 |
|
||
エネルギー源 | 再生可能エネルギー発電の需要増加 | 中 | 中 |
|
|
燃料電池車の水素ステーション増加 | 小 | 小 |
|
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資源効率 | 生産設備由来のCO2排出量への炭素価格導入後の税額軽減 | 大 | ー |
|
|
太陽光発電設備導入によるCO2排出量の削減(Scope1, 2) | 小 | ー |
|
||
製品・サービス | CO2排出量の削減需要に寄与する製品・サービスの拡大 | 大 | 大 |
|
|
プラスチックリサイクル需要への対応、および非化石燃料由来プラスチック・石炭代替燃料の社会実装への貢献 | 小 | 小 |
|
||
CO2排出量が低く、電力の安定供給源となる原子力発電所需要への対応 | 中 | 中 |
|
移行リスク
内容 | 炭素価格の導入(炭素税の課税) |
---|---|
影響度:2℃ | 中 |
影響度:4℃ | ー |
当社の対応 |
|
内容 | 国境調整税の導入 |
---|---|
影響度:2℃ | 小 |
影響度:4℃ | 小 |
当社の対応 |
|
内容 | 生産設備で用いる燃料の非化石化対応の為の設備改修・更新、およびR&Dに掛かるコスト |
---|---|
影響度:2℃ | 中 |
影響度:4℃ | 中 |
当社の対応 |
|
内容 | 従来型火力発電所建設縮小に伴う火力発電関連製品需要の減少 |
---|---|
影響度:2℃ | 小 |
影響度:4℃ | ー |
当社の対応 |
|
内容 | 鉄鋼業界の高炉から電炉へのシフト(CO2削減対策)に伴う製鋼原料の需要拡大による調達コスト増加 |
---|---|
影響度:2℃ | 中 |
影響度:4℃ | 中 |
当社の対応 |
|
内容 | 製品製造段階でのCO2排出量削減対策の遅れに伴う当社のESG評価・評判の悪化 |
---|---|
影響度:2℃ | 中 |
影響度:4℃ | 中 |
当社の対応 |
|
物理的リスク
内容 | 異常気象による台風、豪雨等の自然災害の激甚化により被災した製作所、サプライチェーンの設備復旧に伴うコスト増加 |
---|---|
影響度:2℃ | 小 |
影響度:4℃ | 小 |
当社の対応 |
|
内容 | 海面上昇への対策費用(設備投資)増加 |
---|---|
影響度:2℃ | 小 |
影響度:4℃ | 小 |
当社の対応 |
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2030年度を想定した気候変動がもたらす
“機会”
<1年間の営業利益額へのインパクト>小:~100百万円、
中:100~1,000百万円、大:1,000百万円~
機会
内容 | EV市場の拡大 |
---|---|
影響度:2℃ | 大 |
影響度:4℃ | 大 |
当社の対応 |
|
内容 | 高効率で省エネなパワーエレクトロニクス市場、5Gインフラ市場の拡大 |
---|---|
影響度:2℃ | 中 |
影響度:4℃ | 中 |
当社の対応 |
|
内容 | 再生可能エネルギー発電の需要増加 |
---|---|
影響度:2℃ | 中 |
影響度:4℃ | 中 |
当社の対応 |
|
内容 | 燃料電池車の水素ステーション増加 |
---|---|
影響度:2℃ | 小 |
影響度:4℃ | 小 |
当社の対応 |
|
内容 | 生産設備由来のCO2排出量への炭素価格導入後の税額軽減 |
---|---|
影響度:2℃ | 大 |
影響度:4℃ | ー |
当社の対応 |
|
内容 | 太陽光発電設備導入によるCO2排出量の削減(Scope1, 2) |
---|---|
影響度:2℃ | 小 |
影響度:4℃ | ー |
当社の対応 |
|
内容 | CO2排出量の削減需要に寄与する製品・サービスの拡大 |
---|---|
影響度:2℃ | 大 |
影響度:4℃ | 大 |
当社の対応 |
|
内容 | プラスチックリサイクル需要への対応、および非化石燃料由来プラスチック・石炭代替燃料の社会実装への貢献 |
---|---|
影響度:2℃ | 小 |
影響度:4℃ | 小 |
当社の対応 |
|
内容 | CO2排出量が低く、電力の安定供給源となる原子力発電所需要への対応 |
---|---|
影響度:2℃ | 中 |
影響度:4℃ | 中 |
当社の対応 |
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以上のとおり、当社の各事業分野についてシナリオ分析を行い、リスクと機会への対応を検証しました。
2℃未満シナリオのリスクとして、炭素価格の導入によるコストの増加に加えて、石炭火力発電所向け製品の売上高減少や、生産設備の燃料の非化石化対応コスト増加、当社のCO2排出量削減対応が不十分である場合の評判低下に伴う売上高減少などが考えられます。
これらに対し当社では、主要製造拠点におけるCO2排出量削減を推進しており、再生可能エネルギー由来電力の導入、非化石燃料へのシフトのための研究開発や設備の改修・更新についても取り組んでいます。評判の低下については、再生可能エネルギー由来電力の使用量増大と非化石燃料へのシフト(生産設備の改修、更新)などの計画の確実な実行とともに、計画の前倒しなども視野に入れて継続的な議論を行います。
2℃未満シナリオの機会としては、EVに搭載されるセパレータフィルムの製造装置や、省エネルギー性に優れる電動駆動方式の射出成形機など、環境規制が強まるほど当社にとっては機会となりうる製品群を複数有しており、これらの売上高拡大に向けて、生産体制の増強や市場のニーズに対応した製品の拡充、技術の強化に取り組んでいます。さらに、生産設備の電化や、再生可能エネルギー由来の電力・非化石燃料の利用の推進など、炭素価格導入を機会と捉えた資源効率化を進めます。
4℃シナリオのリスクとしては、台風や豪雨、洪水、高潮などによる被害の発生に起因する生産設備などへの物損、対策費用の発生、操業停止に伴う業績への影響などが考えられます。
これらについて、当社の主要製造拠点の立地条件、予測される気象の変化、製造拠点内および周辺地域の既存の防災設備、被災実績などを外部機関に依頼して精査しました。その結果、製造拠点内だけでなく、堤防の嵩上げなど周辺地域における防災対策も強化されていることを確認しました。加えて、想定される被害額は保険により補償される見通しであることから、今世紀半ばにかけては、物理的リスク(急性・慢性)による業績への影響は軽微にとどまると予想されます。なお、今後も気候動向の監視を継続し、災害の激甚化傾向が一層顕著になった場合は、災害耐性の高い拠点での主要製品の並行生産も検討します。
上記を踏まえ、当社の気候変動に対する戦略は、レジリエンスを有していると考えています。
リスク管理
環境関連、気候変動に関するリスクの特定・評価については、ESG推進委員会および環境マネジメント委員会が実施しております。
具体的には、環境マネジメントシステム(ISO14001)の運用により環境関連規制を遵守しています。
“環境”に特化した年2回の環境マネジメント委員会では、規制などの変更に即した管理と対応への協議を実施しています。
また、CO2排出量および省資源化・リサイクルの推移・状況、気候変動に関わるリスクと機会への対応状況をモニタリング・評価しています。また、それら活動は、ESG推進委員会の活動内容として取締役会に報告され、取締役会の監督を受けます。
特定されたリスクの低減等に向けた取組みなどはESG推進室が中心となり、本社部門、事業部、製作所、グループ会社と連携しながら推進していきます。
なお、当社はリスク管理に関する規程を定めて、全社的なリスク管理体制を明確にしており、重要なリスクに関しては取締役会または経営戦略会議で対応を審議します。ESG推進委員会および環境マネジメント委員会で特定された気候変動に関するリスクのうち重要なリスクに関しては、適宜、取締役会または経営戦略会議で対応を審議してまいります。
ESG推進委員会・環境マネジメント委員会実施体制
リスク管理体制
- 社外役員に対する取締役会議題の事前説明、社外取締役および執行役員の業務執行状況の確認・報告・意見交換の場として「社外役員連絡協議会」を設置
指標と目標
気候変動に関するリスクと機会について、測定・管理する「指標と目標」はカーボンニュートラルの脱炭素社会に向けて、下表のとおり掲げています。また、環境に配慮した事業活動の展開も継続しており、「製品による脱炭素化」と「生産工程の脱炭素化」の両面から改善を目指し活動しています。
CO2排出量削減目標に関してはScope1、Scope2から取り組みを行っています。Scope3に関しては算定中であり、公表および管理指標の設定に向けた取り組みを進めています。
分類 | 管理指標 | 目標値(年度末) | |
---|---|---|---|
2025年 | 2030年 | ||
生産活動におけるCO2排出量削減(Scope1, 2) | CO2排出量削減率(2013年度比) | 45% 削減 |
60% 削減 |
再生可能エネルギーの導入促進 | 全ての使用エネルギーに対する 再生可能エネルギーの割合(Scope1, 2) |
25% 以上 |
40% 以上 |
CO2排出量(Scope1, 2)削減計画と再生可能エネルギーの導入計画
(広島製作所、横浜製作所、名機製作所、日本製鋼所M&E株式会社、JSWアクティナシステム株式会社)の合計。